ドイツ・ボーゲンで3椎のADRを受けてから3か月が経過しました。先日、フォローアップのレントゲン写真と問診票を提出し終え、ほっと一息ついたところです。 私の場合、数十年来の腰痛はあったものの、症状は出たり引いたりの繰り返しでした。最初に気づいた異変は、持続する左つま先~ふくらはぎのしびれでした。その後、何もない床の上でつまずく、階段を降りるのに不安を感じるなどの脱力症状も始まりました。慌てて、近くの整形外科医を受診したところ、椎間板に軽度の変性があるが、歳のせいなので様子見るように。との診断結果で、ビタミン剤と痛み止めが処方されました。
ドクターの言葉を信じ、しばらくはお薬を真面目に内服していたのですが、そのうち、長く歩くと左下肢のしびれとだるさが出るため思い通りに歩けず、学会や勉強会に出かけるのもおっくうになるなど、次第に生活の質が低下し始めました。このまま神経圧迫症状を長く放置していると、手術しても十分な神経の回復が得にくいと考え、松崎さんを介して、早めにドイツでの手術を決心しました。
準備と手続きを進めるうちに、おとなしかった腰痛に毎晩悩まされるようになりました。手術を決めた時点ではまさか腰痛まで出るとは思わなかったので、早めに手術を決めて良かったと思いました。結局、最後の2か月間は、腰痛のため仕事時間を減らさざるを得ず、痛み止めの内服で腰痛をごまかしながら出国に向けて待機していました。
私の経験から、手術をお考えの皆さんに言いたいことは、手術を決めてから実際に受けるまでは数か月かかりますので、その間も少しずつ症状は進行することを考えた上で手術を早めに決められたほうが良い場合もあるということです。
待ちに待った出発の日。松崎さんと羽田空港で待ち合わせをして、ドイツ・ミュンヘン空港に向かいました。初めてお会いした松崎さんは、私の想像と違って、さわやかでカジュアルなお兄さんといった方でした。フライトは11時間に及ぶものでしたが、ビジネスクラスで行ったので、快適そのものでした。 さて執刀をお願いするベルタグノーリ先生は、7000椎間以上の世界一のADR経験をお持ちです。私は外科医ではないので、一人の医師が一生にできる手術件数がどれくらいか分からないのですが、技術も高く、一度に腰椎5椎全ての置換術をできるドクターは世界には他に存在しないとのことでしたので、私としては日本では受けることのできない置換術を、最高のドクターにお願いできたという思いがあり、手術に対する不安はほとんどありませんでした。
松崎さんに付き添われ、私は手術の前日にクリニックボーゲンに入院しました。翌日には私を含め3人の患者さんを手術される予定でした。レントゲンや血液検査が行われ、夜、下剤を飲み、手術後はしばらくシャワーを浴びられないので、しっかりとシャワーを浴びました。そしてナースから眠剤をもらい、比較的良く眠れました。 手術の朝、起きてしばらくすると鎮静剤の前投与があり、ベッドのままガラガラと手術準備室に運ばれました。笑顔のナースに、ナイスドリーム!と挨拶をされ・・・、次に、「〇さ~ん」と松崎さんに起こされると、手術は終わっていました。
術後、病室に戻りベッドにあお向けに寝ていると、ずっとあった左足のしびれ、そしてあお向けで寝ていられなかった腰痛が消えていることに気づきました。すぐに表れた効果に感動しました。
術直後はなぜか嘔気が強く、おなかの傷に響くので、ナースに訴えたところ(英語が通じます)すぐに吐き気止めの坐剤をもらえました。その後も、おなかの傷が痛んだり、眠れない時は、伝えるとすぐに薬を出してもらえました。松崎さんに聞いたのですが、ドイツでは手術体験がトラウマにならないよう、しっかりとペインコントロールを行うという考えなのだそうです。どのナースも笑顔できびきびと仕事されており、私は幾度も助けられました。
入院中、2回ほどベルタグノーリ先生にお会いすることができました。先生は優しいまなざしで声をかけて握手をしてくださいました。この手で私を執刀してくださったのだと思うと、感無量でした。
さてこれは人にもよるのでしょうが、私は入院中~退院してしばらくの間、食欲がかなり落ちてしまい、おそらく5kgくらいは痩せたと思います。そんな時に役立ったのが、日本から持ってきたカロリーメイトでした。これを食べているととりあえず安心できました。皆さんにも、食欲が落ちた時に備え、手軽にカロリーと栄養素を補給できる食べなれた総合栄養食を持って行くことをお勧めします! またドイツのトイレにはウオッシュレットがないので、念のためおしりふきを持って行きましたが、これも重宝しました。特に、術後数日間はシャワーを浴びることができないので、持って行くと大変快適に過ごせます。
退院後は同じ街(ボーゲン)のペンションに滞在しました。お部屋はウッディで整然としており、ゆっくりと過ごせます。ただし日没になると時差の関係で日本の家族や友人とのLineも閉じるため、慣れない静けさに寂しさが募ってしまいました。従業員の皆さんはにこやかに対応してくださり、私は一度も嫌な思いをしませんでした。 ボーゲンは静かで美しい街です。私が滞在した時はちょうどクリスマスシーズンに差し掛かっていたので、街が日々クリスマスデコレーションされていくのを、毎日の散歩の時に楽しんで眺めていました。
ある日、街並みに見とれて散歩していると、ヨーロッパ独特の石畳に足を取られて転びそうになりました。術後に転倒することはとても危険なので、松崎さんに隣町のシュトラウビンでノルディックウォーキング用のポール(杖)を買ってきてもらいました。私はこのポールを大変重宝しました。ペンションの室内でベッドから立ち上がる時、散歩の時、そして帰国後も、肌身離さずずっと愛用していました。腰椎の手術予定の方は、折り畳み可能な杖を持って行くことを強くお勧めします。
今回の旅行の記念に、予定を変更して最後の1日にミュンヘンに滞在しました。クリスマスシーズンのミュンヘンの美しさは、思わず息をのむほどでした。有名なマリエンプラッツに建ち並ぶ幻想的なクリスマスマーケットを見て歩いたのは、本当に良い思い出です。
今回の旅のすべてをコーディネートして、行程にも同行していただいた松崎さんは、高い学歴の持ち主ですが、驚くほど自由な考え方を持っておられます。私にはとても優しく接してくださいましたが、英語圏の人と似てるのか、重要な事をものすごくダイレクトに話されますので、典型的日本人は心してかからなくてはいけないかもしれません(笑)。私が今まで会った人の中で、ダントツに破天荒で自由人、なおかつ面白い方でしたので、一緒に過ごしていてとても楽しかったです。ドイツ滞在中、ホームシックで食欲低下し落ち込みそうになる私を、抜群の食欲と持ち前の明るさで励ましてくださり、とても感謝しています。
さて帰国直後は、椅子に座ると腰椎に荷重がかかるためか術部に痛みが出て、座れる時間がなかなか伸びず、また帰国後1か月も経たないうちに、年末の繁忙期に外来診療の仕事に復帰したのもあり、途中で疲れと焦りも出ました。ですがインプラントが体になじむにはそれなりの時間がかかると考え直し、気長にリハビリに努めた結果、3か月経過した今では、ゆっくりとですが、右肩上がりにすべてが良くなっているのを実感しています。
術後は、腰だけでなく、自分の健康状態全般に気を配るようにし、マイペースを心掛けています。手術をきっかけに自分の生き方や働き方を見直したことで、人生の仕切り直しにもなりました。今までは、仕事に子どもの世話にと忙しく過ごしていましたが、これからは自分優先で人生後半を悠々と過ごしたいと思っています。